小説「スーパーカブ」 読書感想・レビュー

角川スニーカ―文庫より出ているトネ・コーケンさんの小説「スーパーカブ」を読みました。

ちょとだけネタバレあります。

ストーリーは一人の孤独な女子高生がスーパーカブに出会い、カブに乗る事による様々な体験を通して成長していく物語です。


スーパーカブ (角川スニーカー文庫)

ただ、女子高生という設定と表紙及び文庫の中に掲載されているイラストのイメージとはかなりかけ離れています。

いわゆる学園ドラマ的な深い友情の絆や、ドキドキの恋の駆け引きみたいなのはありません。

ガルパンみたいに母校を救うためにみんなで力を合わせて戦ったりもしません(笑)

基本一人でカブに乗ってます。

かなりクールでハードボイルドです。

カブのエンジンをかける時の取説のような描写とか、オイル交換やパンク修理などのメンテナンスの様子、

雨具やゴーグルやボックスなどの装備系の検討やカブ系のバイクやエンジンの話が随所に散りばめられています。

その流れというのは、初めてバイクに乗り始めた時の体験を思い出して懐かしさを感じさせてくれたり、不便を解決する為に道具を揃えていく楽しさを味わいさせてくれたりします。

主人公の女子高生の性格が、いわゆるキャピキャピした女の子ではなく、かなりの現実主義者で、スーパーカブをただ「優秀な道具」としてだけ捉えています。カブが「カワイイ~」とかの感情は皆無、名前を付けたり、擬人化する事もなく、もちろんキーにマスコットなんかはつけません(笑)

物選びに関しても若い女の子とは思えないような実に合理的な判断をしていきます。カブが好きな人間は嗜好が似ているのかもしれませんが、出てくる物が作者の蘊蓄と合わさって実に興味深いです。

*出てくるモノについては「小説スーパーカブのモノについて」もご覧ください。

主人公がカブに乗り慣れて、装備も整い始めると、少しずつ行動範囲を広げていきます。リアルな風景とともに描かれる、走る楽しさや苦しさ、ツーリングでしか味わえない独自の感覚は読んでいて素直に共感できます。

別の娘のエピソードですが、特別にカスタムしたカブ(具体的な車種名もちゃんと設定されてます)で、キズだらけになりながら登山走行にチャレンジしたりとかもします。

この小説を敢えて例えるならばスーパーカブを、大藪晴彦氏の銃のように弄り、開高健氏のリールのように語り、片岡義男氏のバイクのように走らせる、そんなテイストに溢れた感じの物語です。

おじさんでも安心して楽しく読む事ができますよ。

まあ、主人公は女子高生ですが(笑)

 

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